歳を重ねる
誕生日が待ち遠しかったのは、どれくらい前のことでしょう。いつの頃からか待ち遠しさが薄らいだように思います。
時折目にする「アンチエイジング」という言葉や「いつまでも若々しく!」というキャッチフレーズなど、加齢に抗う流れが今の世の中にはあるようです。
果たして、歳を重ねることはネガティブなことなのでしょうか?
歳を重ねることは、身体的な加齢と心理的な加齢の2つの側面から理解できます。
生物学的に見る
人間の身体機能は20歳ころをピークに低下していくため、生物学的に見ると身体的加齢は「出来ないことが増えていく」というネガティブ要素が圧倒的に多いと言えるでしょう。瞬発力が落ちた、体力がなくなった、小さな字が見にくくなった… 加齢とともにそんな変化を感じている人も少なくないかもしれません。
心理的・知的側面から見る
一方、心理的側面から加齢を見ると違った世界が広がります。例えば知能。処理速度や短期記憶といった流動性知能は10代後半~20代前半をピークにその後低下していきます。
しかし、
- 他人の感情を推測したり共感したりする能力
⇒ 40~50代がピーク - 社会生活での経験から得られる結晶性知能
⇒ 60~70代がピーク
と言われています。 また、歳を重ねるにつれて多少のことでは動揺しなくなるなど、私たちのストレス耐性は加齢とともに向上する側面もあります。
つまり、知的側面や心理的側面から見ると、歳を重ねることはポジティブ要因でもあるわけです。歳を重ねることにより身体機能は低下しますが、そのかわりに自分の中の引き出しが増えていく、とも言えそうですね。
加えて、若い時には気になって仕方なかった周囲の存在も、加齢とともに変化してきたように感じませんか?
過去の自分と今の自分
若い時は、他者の目に自分がどう映っているか気になったり、物事を「引き算」で捉えたりしがちです。
- 「同僚は○○ができるのに自分はできない」
- 「あの人はこれを持っているのに自分は持っていない」
引き算で物事を見過ぎると気持ちは沈み、そのうち「自分には大きな欠陥があるのではないか」と感じてしまうことも。これが加齢とともに、「人は人、自分は自分」という気持ちに向かっていくから不思議です。
歳を重ねることによって手放すものもあれば、手に入るものもある。
人は毎日歳を取り、経験を重ね、心身ともに変化します。つまりは、毎日新しい自分が生まれている、とも言えそうです。昨日の自分と今日の自分では違うところがあるはずですし、今日の自分と5年後の自分も同じではないでしょう。 いくつになっても、それぞれの年齢に見合った心身を維持できればうれしいですね。
好きな詩人の1人に、谷川俊太郎さんがいます。谷川さんはあるインタビューで、歳を取ったことにより「諦めてもいいとか、絶望してもいいとか、そういうマイナスの価値が自分でもありのままに認められるようになった」と述べていました。また「今後どんな創作活動をしていきたいか?」と問われると「今まで経験したことのない何かが感じられるといいな」とも。この時谷川さんは御年92歳。すさまじい好奇心です。
谷川さんのように自分をありのままに認めることは簡単ではありませんが、「この人のように歳を重ねたい」と思える人がいると、年齢を重ねることが楽しみになるように思います。みなさんには、加齢のお手本にしたい人はいますか?