パワハラに要注意
労働施策総合推進法の改正により大企業では2020年6月から、中小企業では2022年4月から、パワーハラスメント対策を講じることが義務付けられました。いわゆる「パワハラ防止法」です。
法の詳細や企業が講じるべき措置等の説明は別の機会に譲りますが、個人にスポットライトを当てると、私たちはパワーハラスメントの被害者にも、そして行為者(いわゆる加害者のことを、ハラスメントでは“行為者”と呼びます)にもなりえます。
それ、パワハラかも!?
「自分は絶対に行為者にならない」「被害に遭うことなんてあり得ない」と自信を持って言える人は少ないでしょうし、そのように断言する人より「自分も行為者になるかもしれないから、意識しておこう」と心掛けている人の方が、かえって安心なように思います。”だろう運転”より”かもしれない運転”を推奨する車の運転と同じですね。
カウンセリングではハラスメントに関するご相談も多くお受けしますが、中には「そんなつもりじゃなかったのに、会社から”パワハラ行為者”だと認定されてしまった…」と落ち込んでご相談にお見えになる方もいらっしゃいます。
「パワハラしてやろう!」と思って他人に接している人は稀でしょう。カウンセリングで出会うケースでも「自分は相手のことを思って指導した」つもりの言動が、いくつかの要因によって「不適切な指導・叱責」になってしまったものが少なくありません。
パワハラにつながりやすい要因
パワハラの種類(身体的攻撃・精神的攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過少な要求・個の侵害)等は厚労省のサイトなどで確認できます。 ここでは、パワハラにつながりやすい、相手との適切なコミュニケーションを阻害する個人要因をご紹介します。
その1)自分の中の「こうあるべき」が強いとき
人はそれぞれの価値観・信念を持っています。それが強すぎたり多すぎたりして、自分以外の人にも強要しそうになったら要注意。あなたの「べき」と他者の「べき」はイコールではありません。あなたが何か(誰か)に強い怒りを感じる時、それはあなたの信じている「べき」が裏切られた時、とも言えるでしょう。まずは自分の「べき」を自覚することがスタートです。
特に成功体験に裏打ちされたアドバイスは「相手によかれ」と思って伝えがちですが、ともすると「相手もそうするべき」という押しつけにもなりかねないので要注意。
その2)俯瞰の視点が持てず、想像力が働かないとき
人は強い情動が惹起されると、その瞬間思考停止に陥ります。怒りや恐怖はその最たるもの。だからこそ、アンガーマネジメントの「6秒ルール」を思い出して冷静な思考を取り戻しましょう。
いつもの冷静さを取り戻せたら、自分の置かれている状況を俯瞰で捉える”メタ認知”を意識します。そして、「相手から見えている世界」を想像してみましょう。
一朝一夕に身に付く技ではありませんが、千里の道も一歩からです。少しずつでもできるようになると「相手に伝わるコミュニケーション」のレベルがアップします。
その3)感情のコントロールが難しいとき
自分の「べき」を自覚し、俯瞰の視点が身に付いた人であっても、心身に余裕がなくなると感情マネジメントが難しくなるものです。睡眠不足、極度の身体疲労、時間に追われている、心配事を抱えている… そんな時こそホッと一息ついて、自分の中に湧き上がってくる感情を見つめましょう。
「余裕がなくイライラしている」という自分の問題を、無意識のうちに「発散するいい機会」と、目の前の弱い相手にぶつけようとしていませんか?
学生時代運動部に所属していた私は、監督から強く叱責されると頭が真っ白になり、さらに叱られることがありました。当時はできない自分を責めましたが、今思うのは、「厳しく叱責されてパフォーマンスが上がる人は、ほとんどいない」ということ。 大切なことを感情的に伝えられると、私たちには “相手の感情”だけが強く響き、肝心な中身は届いてきません。
「わかってもらいたい!」と強く思えば思うほど言葉に熱も入りがちですが、威圧的な態度は逆効果にしかならないので気を付けたいものですね。